漫画やアニメで人気の「異世界転生もの」。主人公が突然「トラックにぶつかる」ことで物語が始まるのがお約束だ。だが、これはトラックに対する「危険なもの」という社会の固定的なイメージが今も残っている象徴ではないだろうか。このようなイメージを変えるには物流の「見えない現場」を意識的に発信していくべきだ。一般社会からすれば、身近すぎて分かった気になりやすい業界であるだけに、働く人の姿や技術を伝える努力が欠かせない。
実際のトラックの交通事故件数はどうか。2024年に発生したものの中でトラックが関わったのは、21年比491件減の1万3540件。このうち、人との事故は1260件で、横断中の死亡事故は15件減の50件だった。比率は高くないが、大幅な減少には至っていない。安全確保と社会からの信頼回復は依然として業界の重要課題だ。
物流のイメージが変わらない要因には、「身近すぎて分かった気になる」現状がある。航空機の整備や鉄道運行の裏側はテレビ番組で紹介される一方、トラック運送の現場が取り上げられることは少ない。宅配便の印象が強く、「物流=宅配」という認識が広がっているが、実際には、運ぶモノやルートが変われば求められる技術も全く異なる。
他業界では仕事に密着し、本音や専門知識を伝える動画が人気を集めている。働く姿やプロの技術に触れることが、人の興味や尊敬の念を生む。物流も同様に、現場の奥深さを発信する工夫が求められる。例えば、手元のスマートフォン一つを取っても、素材はどこから運ばれ、どこで作られてきたのか、その旅路を知るだけで、物流の面白さが見えてくる。
「トラックにぶつかる」転生漫画の一幕を逆手にも取れる。トラックの慣性力といった物理的な特性の解説や精密な輸送計画など、当たり前の裏にある専門性を発信する。そこに、興味を引く魅力がある。
転生漫画の冒頭は「日常から非日常へ」の境界を描く。物流は、日常を支えるためにモノに旅をさせる。その現場と働き手をもっと見せることこそが、業界のイメージを刷新する物流の転生物語の始まりになる。(宮﨑茉里奈)