10年ちょっと前に出版された本で、ロンドン大学の経済学者マーチン・ストップフォード教授が書いた『マリタイム・エコノミクス』という本がある。2009年に出されたが上下巻合計1100㌻の大冊ゆえに、なかなか和訳が出なかったところ、ようやく出たのが14年だった。
この本は現代につながる海運業とその関連産業である造船業や金融業、更には保険業なども含めて歴史的な知識と経験の蓄積があるイギリスで書かれた本だけあって、海運業の歴史から始まり、その経済的分析などを踏まえた上で海上輸送の本質というものをしっかり突いており、読む価値が高い本である。
最近時間ができたので読み返してみたが、例えば、海上輸送の原則として①規模の経済を追求すること②貨物の荷役の回数を減らすこと③貨物の荷役作業をよりスムーズにすること④在庫量を減らすこと――を指摘している。
これらの各々(おのおの)が持つ資本コストを踏まえ、相反するものも止揚しながら、何より重要な荷主が求める優先順位を踏まえ全体として最善なシステム構築をすべきというものだ。これらの原則は海上輸送だけに当てはまる話ではなく、陸上輸送、航空輸送でも考えるべきことだということに思い至る。
当たり前のことと感じるかもしれないが、深い理解に達した上で出てきたものであり、分かる人はそこからインスピレーションを受けるであろう。AI(人工知能)でスキミングしてタイパよく仕事するのもいいが、たまにはこういう大冊の良書を読むことが大事だと感じた次第である。