【主張】生産性向上 減速させるな

高市早苗首相は就任早々、上野賢一郎厚生労働相に労働時間規制緩和の検討を指示したが、「心身の健康維持と従業者の選択」を前提に時間外労働の上限規制を見直したい考えだ。労働者側は「時代に逆行している」など反対意見が根強い一方、経営者側には緩和を求める意見が多いようだ。
 トラック業界はこれまで、業界を挙げて「2024年問題」対策を推進してきた。個別企業の取り組みを取材してきたが、働き方改革に前向きな経営者が大半だった。ところが、高市氏だけでなくメディアやネットなどで露出度の高い政治家からも見直しの声が上がるようになり、最近は運送業経営者からも「もっと働いて収入を増やしたいというドライバーには緩和してほしい」といった意見が増えてきた気がする。
 物事が一つの方向に向かう場合、必ず反対意見もあるわけで、いったん立ち止まって再検証することには意義がある。これまでは賛成派の意見ばかり目立って、反対派あるいは慎重派は陰に隠れていた印象だ。働き方は「生き方」であり、本来は行政に押し付けられるものではない。今ではコンプライアンス(法令順守)を第一に掲げる運送会社の中にも、創業時は寝る間を惜しんで働いていた会社は多い。ハングリー精神は物流業界の活力源でもあった。
 だが、道路貨物運送業は長年、労働災害(脳・心臓疾患)の請求・支給決定件数でワーストが続いている。直近の24年度も請求が155件、支給決定は76件と、他業種に比べて突出して多い。仮に一定の条件を満たしたドライバーに緩和を認めるとしても、健康維持の線引きをどこでするのかは極めて難しい。
 働き方改革の肝は生産性の向上だ。「高い収入が欲しいから長時間働きたい(働かなければならない)」という状況自体を変えようとしている。他職種と同じぐらいの時間働けば他職種と同じかそれ以上の収入を得られるようにしなければ、若い人材は入ってこない。デジタル化で労働時間を短縮し、標準的運賃や適正原価を導入したのもそのためだ。規制緩和を検討するにしても、生産性向上の取り組みを減速させてはならない。(江藤和博)