【主張】人と社会つなぐ出所者雇用

全国で出所者雇用の取り組みが広がっている。9日には長崎刑務所に運送事業者ら68人が集まった。長崎県トラック協会の食料品部会などが呼びかけたスタディーツアーだ。同刑務所によると、参加人数は全国の矯正施設で行われた同様のツアーとしては最大規模。出所者の就労支援と再犯防止を目的に刑務官らと意見を交わした。出席者の誰もが出所者雇用の難しさを熟知している。それだけに、犯罪や非行を犯した人の立ち直りを雇用で支えられないかと、県内外の事業者が一堂に会したことに敬意を表したい。
 トラック運送は人が主役の仕事だ。ドライバーは出発したら一人でハンドルを握り、荷物を積んで目的地へ届ける。大雨や停電といった非常時でも、人から人へ荷物を渡せる手段はトラックをおいて他にない。その仕事の根幹にあるのは使命感と信用だ。だからこそ、参加した事業者からは、出所者雇用を巡って率直な意見が次々と上がった。
 警察庁の調べでは近年、刑法犯により検挙された人の半数が再犯者であるという状況が続いている。一方、法務省の統計によると、刑事施設に再び入所した人のうち7割が再犯時に無職だった。仕事に就いていない人の再犯率は、仕事に就いている人と比べて著しく高い。
 仕事があれば問題が解決するほど話は単純ではない。しかし、九州・沖縄の矯正施設での内定者数は2024年度が170人と、20年度の9人から19倍に増えた。業種別では建設業に次いで運輸業が2位となっており、官民の連携が数字となって表れている。
 ツアーの意見交換会で、長崎刑務所の刑務官はある受刑者の働きぶりに触れ、こう述べた。「もし罪を犯す前に仕事があり、支え合える人がいれば、この人はここにいなかったはずだ」
 出所者雇用は、人手不足対策である前に、一人ひとりが社会とつながり続けられるようにするための取り組みだ。裏切られても再び出所者を雇う事業者がいる。一方で、定着率の低さなどから採用をためらう経営者もいる。簡単にはいかない。しかし、共生社会の裾野を広げるためには、この問題と真剣に向き合っていく必要があるだろう。(上田慎二)