【ちょっといっぷく】湯浅コンサルティングコンサルタント 内田明美子氏、先生の「セレナーデ」

堅物で貧しい音楽教師の青年が、美しい貴族令嬢のレッスンで自作の「セレナーデ」を教材にする。楽譜を渡された弟子は思いがけない美声でこれを口ずさみ、やがて情感たっぷりに歌いあげる。不意を突かれた教師は驚き、2人は身分違いの恋に落ちる。
 フランツ・シューベルトを主人公とする、1933年のドイツ・オーストリア映画「未完成交響楽」のワンシーンだ。
 95歳のバリトン歌手の浅岡節夫先生が、ゴールデンウィーク最終日の5月6日、富山市でリサイタルを行う。高校時代の恩師で、事務方の手伝いをさせていただいているが、リサイタル第1ステージ最初の曲に、この「シューベルトのセレナーデ」を選ばれた。中学生の頃に映画で出合って以来、愛してやまない曲だとおっしゃる。「あの頃、あの映画を見た中学生は全員、彼女に恋していたよ」と楽しそうに語ってくださった。
 ユーチューブで日本語字幕付きの「未完成交響楽」を見た。21歳の主演女優マルタ・エゲルトの美貌と、ビブラートたっぷりの扇情的な声、せつなく甘いセレナーデの旋律は、強い浸透力を持つ。終盤でシューベルトが未完成交響曲の楽譜に「わが恋の終わらざるごとく、この曲も終わらざるべし」と書き込む場面に見覚えがあった。深夜のテレビで、先生と同年代の父と一緒に見たのを思い出した。父もまた、ヒロインに恋をしていたのだ。
 10代のみずみずしい心に刻みつけられた名曲は、一生の宝物となる。リサイタルで、先生の80年来の恋心は実るだろうか。