【主張】若年世代のAI活用に危うさ

AI(人工知能)の活用で、物流業界では業務効率化が急速に進む。トラックでは配車やルートの最適化、倉庫では入出庫管理など、あらゆる業務でAIが活躍している。道具として純粋に使えば心強い味方だが、若い世代による活用は、ある種の危うさをはらむ。
 プロ野球巨人軍の阿部慎之助監督が、18歳の長女に暴行した疑いで逮捕された。発端は家庭内のトラブルで、長女が対話型の生成AIに相談すると児童相談所への連絡を提案され、児相から通報を受けた警察が自宅に駆け付け逮捕。翌日には釈放されたが、新聞やテレビで大きく報じられた。
 生成AIは、世の中で起こっているさまざまなDV(家庭内暴力)が犯罪化しているデータを蓄積しているため、児相への連絡を勧めた回答自体は間違いではない。しかし、トラブルの具体的なニュアンスを分析したわけではない。当事者同士がいったん冷静になって話し合えば、児相も警察も関わらず解決するケースもあるが、生成AIはそこまで読み解けない。
 物流業界では、会社と従業員間のトラブルが増え、トラック協会の支部などでは、弁護士や社会保険労務士を招きセミナーを開催している。ここで講師が異口同音に指摘するのは、ある日突然、何の前触れもなく会社が訴えられるケースの多さだ。上司への相談や話し合いなどのプロセスは完全に省略される。
 10~20代の若者には、AIはもはや道具ではなく、信頼できる相談相手だ。24時間いつでも悩みを聞いてくれる。トラブルがどんな状況でも、本人がパワハラやセクハラと受け取り相談すれば、過去事例のビッグデータを踏まえ、労働基準監督署や弁護士への連絡をアドバイスするかもしれない。それでも業界にとって、この世代はのどから手が出るほど欲しい「金の卵」だ。
 AIの回答をうのみにする若者が増えているとして、その流れはもう止められない。家族や上司が信じ過ぎるなと説いたところで、AI以上の説得力を持たせられなければ、結局は本人の判断に委ねるしかない。今回のケースが、AIとの付き合い方を若者に考えてもらうきっかけになればいいのだが……。(星野誠)