【ちょっといっぷく】川崎近海汽船特別顧問 久下豊氏.、落語は正直者を救う

落語が好きでたまに聴いている。先日は上方落語の帯久(おびきゅう)という演目を聴いた。もちろん東京落語にも同じ演目があるが、私はどちらかというと上方落語の演出のほうが好きである。
 かなり長いはなしなので、あらすじで説明してしまうと味わいがなくなることを承知でまとめると、正直者の商人(和泉屋与兵衛)が悪辣(あくらつ)な商人(帯屋久七、略して帯久)に貸した金を踏み倒され、盗っ人扱いまでされて追い返されたことでかっとなる。腹いせに帯久の家に付け火をしようとしたところ人に見つかり、帯久から付け火のとがで訴えられ、お裁きを受けることになるというのが前半部。
 後半では帯久が出した訴状を基に奉行所が事件を調べるのであるが、調べれば調べるほど与兵衛は評判がいい一方で帯久はすこぶる評判が悪い。これは何か裏があるということで、さらに調べを尽くした上で裁きの場となる。
 時の大坂町奉行が帯久に借金の踏み倒しを白状させるべく追い詰めていく場面が聴かせどころ。片や本来は火あぶりの刑にされてもおかしくない与兵衛には、帯久から借金を返させた上にうまい理屈で命を助ける裁きをする、という話だ。作り話と言えばそれまでだが、ちゃんと正直者が救われる世界になっているのがいい。
 借金をごまかし、人情もなく、平気でうそをつく帯久は結局厳しい裁きを受けることになる。さて、翻って今の日本は正直者が救われ、不正直者が罰を受けるようになっているかどうか。証拠捏造(ねつぞう)、文書改ざん、脱法行為の見逃しなどなど、心もとないところだ。