改正自動車運転処罰法が可決・成立し、危険運転致死傷罪の走行速度に数値基準が設定される。危険運転にはこれまで明確な定義がなく、事故の被害者や遺族にとっては一歩前進と言えるが、数値基準は「もろ刃の剣」になり得る。
現行法は危険運転を「進行の制御が困難な走行」と定義していたが、改正法では「一般道は最高速度50?以上の超過」「高速道路は60?以上の超過」と数値基準を決めた。50?制限の一般道なら100?での運転が危険運転に相当するが、仮に、99?だからセーフと判断すると悪質な故意を見逃すかもしれない。
また、事故が起こるのは直線道路だけではない。急カーブや交差点では50?でも死傷事故につながる恐れがある。このような状況も想定し「進行の制御が困難」との規定は残しているものの、これでは現行法と何ら変わりはない。制御困難か否かは結局、裁判官の主観に委ねられる。
2018年12月、津市の国道23号で、法定速度の時速60?を大幅に上回る146?で走行していた乗用車がタクシーと衝突し、ドライバーと乗客3人を死亡させる事故があった。運転者は危険運転致死罪で起訴されたが、判決は一審、二審とも「制御困難な速度とは言い難い」などと判断し、より刑が軽い過失致死傷罪を適用した。
危険を察知しブレーキを踏むまでの空走距離と、完全に停止するまでの制動距離の合計を「停止距離」と呼ぶ。日本自動車連盟(JAF)の資料では、時速40?からの停止距離は22?で、100?だと112?。まして146?からの車両制御はどう考えても難しく、非常に危険だ。
自分の意思でアクセルを踏み、制御不能なスピードを出すこと自体が悪質な故意のはず。だが、それを理解できない裁判官がいる限り、数値基準は役に立たないどころか、事故の本質を見誤るもろ刃の剣になる可能性もある。
法律が改正された今、裁判官の考え方や姿勢も「判例主義」からのアップデートが必要だ。JAFが行う事故シミュレーションなどを見学し、専門家の話も参考に、机上ではなく現実の交通事故を学んでもらいたい。(星野誠)