【主張】フィジカルAIにはらむ危険

生成AI(人工知能)の進歩は目覚ましく、数年前は眉唾ものと思っていたが、データ整理や企画のたたき台作成、さらには相談相手としての利用も一般化してきた。三菱総合研究所は「既存業務フローにAIを足す発想から顧客価値起点の業務再設計へ」として、「AIファースト」を企業の成長戦略として提唱する。
 従来型の組織形態では、調達、生産、物流、販売の各部門内の確認や部門間の調整にムダが発生し、外部環境の状況把握や変化への対応が不十分だった。しかし、事業活動をAI前提で再設計したAIファースト企業では各部門のAIが常時連携することで、ハイスピードで高品質な製品・サービスの量産が可能になる。
 もちろんAI任せで全ての業務が最適化するわけではなく、全部門を総括する責任者が全体管理を担うAIに指示して監督するとともに、各部門の担当者を通じ、それぞれのAIを適切に運用することが求められる。こうした業務スキームは、一定規模以上の荷主に選任が義務付けられた、CLO(物流統括管理者)をトップとする組織との親和性が高いと言える。
 一方、現場でのAI導入のハードルは高い。トラック運送事業では、完全無人運転が実現しない限り、ほぼ人の操作・判断に委ねられるため、配車や運転上のリスク検知などに活用が限定されている。
 現場業務の効率化に向けては、AIの高度な判断能力にロボットや移動機器などの物理的な機能を統合したフィジカルAIの開発が進みつつある。実用化されれば物流の効率化に大きく貢献する半面、事実に基づかない情報をあたかも正しいかのように生成する「ハルシネーション」によって、生命に関わる事故、大規模な交通障害といった被害を招く危険性をはらんでいる。
 SF作家のアイザック・アシモフが1942年に提唱したロボット工学三原則は「人間への安全性」「命令への服従」「自己防衛」で構成する。昨年の大阪・関西万博では、人とロボットの共生をうたった「新ロボット3原則」が公開された。AIが人を支配する暗黒世界が現実にならないよう、開発者はもとより利用者もこれら大原則を肝に銘じる必要がある。(田中信也)