【ちょっといっぷく】ボストンコンサルティンググループマネージング・ディレクター&シニア・パートナー 森田章氏、未来を考えるAIへ

AI(人工知能)は、豊富な知識を持っている。しかし、必ずしも現実の世界がどのように動くかを理解しているわけではない。現在の大規模言語モデル(LLM)は、膨大なデータから言葉のつながりを学習している。一方、企業経営で求められるのは、地政学や市場、顧客、競合など、環境変化を踏まえて「次に何が起こるか」を予測しながら意思決定する力である。
 そこで注目されているのが「世界モデル」と呼ばれるAI。現実世界の構造や因果関係を学習・表現させ、施策の実行により何が起こるかシミュレーションする。製造業で活用が進む「デジタルツイン」が現実世界を仮想空間に再現する技術だとすれば、世界モデルは、その仮想空間で未来の変化や意思決定の結果まで予測する「思考するデジタルツイン」だと言える。
 もちろん、実現は容易ではない。AIは物理法則だけでなく、人間の感情や組織行動、市場の不確実性まで理解しなければならない。因果関係を捉え、複数の未来を比較する能力が求められる。このため世界中の研究機関やテクノロジー企業が、動画やロボットによる経験学習、長期記憶、推論機能を統合した新たなAIの研究・開発を進めている。
 AIの競争軸は「知識を答えるAI」から「未来を考えるAI」へと移りつつある。企業にとって重要なのは、AIを効率化の道具として使うことだけではない。世界モデルを活用して経営での選択肢を仮想空間で試し、より良い意思決定を支えるパートナーにできるかが、次世代の競争力を左右するだろう。