【ちょっといっぷく】元国土交通事務次官 藤井直樹氏、AI問題のジレンマ

AI(人工知能)の世界は驚くほど進歩が速い。中国のヒト型ロボットは、人間より速く走る。米国ではAIがテスト環境を突破して不正アクセスを行う事例が今夏に相次いで確認され、制御喪失のリスクを避けるための開発規制の是非が争点になっている。コンピューターが人間を滅ぼすというSFの世界は避けなければならないが、それ以前に、AI時代に人間は何をなすべきかを問われる場面が多くなってきた。
 9月に参加した韓国でのシンポジウムには、同時通訳のブースがなかった。英語のプレゼンは、AI翻訳により、次々と英語と韓国語の字幕に変換される。聞けば、日本語で話しても同じ対応が可能とのこと。専門技能の代表格である同時通訳の仕事の行く末が気になった。
 大手商社を早期退職してコンサル会社を立ち上げた知人は、2種類のAIをエージェントとして使用し、顧客へのアドバイス内容を作成している。準備費用はわずか100万円。24時間働かせても文句を言わず、パワハラの問題も生じない。一方で、知人はAIにはできない営業活動に日夜いそしんでいるという。
 仏テレビのニュースでは、古本を大量に買い、背表紙を引きちぎり中身をスキャンし、AIの知識の充実を図る開発者が、書籍文化の破壊だと批判を受けていた。
 AIのもたらす問題を解決するために人間の考える力を養う必要が高まる一方、AIのためにそれがますます難しくなっている。このジレンマの解決方策は、やはり人間が考えなければならない。